表彰活動
コンクール in 静岡 第7回「徳川記念財団コンクール」
德川賞(最優秀賞)
「400年前から学ぶ」
静岡市立高松中学校3年 東井上 遥華
初めて食べた時は衝撃だった。
ある日の給食の時間、おなかを空かせた私はメニュー表を見た。そこには、ご飯や牛乳、いつもの献立に並んで、異彩を放つ「黒はんぺんのフライ」の文字が。出身が静岡でない私は、(黒? はんぺんは白だよね…)と脳内に疑問があふれかえった。「いただきます」。その声とともに私は一口頬張った。驚きだった。はんぺんなのに見た目は半円で、色は灰色をしている。さらに、あのふんわりとした食感でなく弾力があり少し重いちくわのような噛み応えもある。
「お、おいしい…」
初めて食べる黒はんぺんは私に大きな感動を与えた。
お昼の校内放送が始まった。毎日その日の給食の豆知識を提案してくれるのだ。その日の内容はやはり黒はんぺん。
―今日の黒はんぺんは400年以上も前に徳川家康が作らせたと言われています―。
今日2度目の衝撃だった。この食べ物はあの家康が作らせたのだと考えるとなんだか感慨深いものである。
家に帰った私は家康について調べてみた。
家康が亡くなったのは1616年。現代の満年齢でいうと73歳だったそうだ。当時の平均寿命は30〜40歳だったともいわれていて、それと比較すると、家康が非常に長生きだったと感じられる。
なぜ家康はこれほどまでに長生きできたのだろう。
調べていくうちに、これは家康の「健康オタク」からくる食生活にあると分かった。彼は、戦国大名でありながら麦飯と豆味噌が中心のいわゆる粗食と言われる食事を進んで摂っていた。
その裏には自分自身の健康について考える一面もあれば、「主が進んで倹約すれば、いくらか戦費に回せるし、百姓を労(ねぎらう)うことも可能だろう」という庶民を思う心も持っていたようだ。それを聞き、家康が天下統一する実力の持ち主だということを感じた。
あの黒はんぺんは、駿府城に居た家康が余りのイワシを保存するため作らせたのが由来らしい。魚の骨や皮も丸ごとすり身にする黒はんぺんは、タンパク質の他、鉄分やカルシウム、EPA、DHAなどきりがないほどたくさんの栄養素が含まれている。給食にも出される黒はんぺんは、江戸時代からのスーパーフードと言えるだろう。
私は、この給食の日を境に家康への見方が変わった。今までは、天下統一した静岡の将軍というイメージだけだったが、現代にも通じる確かな考えと頭の良さ、優しい心の持ち主だと思うようになった。
まず、いろいろな人を思いやる気持ちだ。偉い立場でも豪華なものを摂るのではなく、自身の健康や家来、百姓の気持ちなど民衆すべてのことを考えている。
その謙虚な姿勢を見せられる人は今の時代、なかなかいないだろう。私自身も自分の周りの人の事も考え、家康のように多くの人に慕われる人を目指したいと思う。
そして、食品ロス問題だ。日本人は「一日当たり一人お茶碗一杯分もの食べられる食べ物を捨てている」。これは最近よく聞く言葉ではないだろうか。現在の日本は食べ物がたくさんある。が、これは無限にはない。余ったら捨てるという間違った考えを捨て、家康のように無駄なく、おいしく食べる工夫をすべきだ。食品ロス解決のためにも私たち一人一人が考えて実践すべきではないだろうか。
家康は江戸時代の大将軍だ。現代を生きる私たちも彼の行動からたくさん学ぶことで、未来のためにもより良い日本を作り上げていけるのだと思う。